読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

雑談ブログ

豚骨ラーメン

大衆食堂ヤマブキ、魅惑のわらじトンカツとカツカレー

誰しも、贔屓にしている飯屋の1つや2つはある事だろうと思うが、今日は、私が愛して止まない大衆食堂「ヤマブキ」について、少々書かせていただこうと思う。

ヤマブキのメニューで一番の人気は、何と言っても、昼限定の日替わり定食だろう。

煮込みハンバーグ、カキフライ、豚キムチ、ビーフシチューなど、その内容は様々で、他店を圧倒するボリュームながら、お値段据え置き味は絶品。一口食べれば、これは夕餉か晩餐かと言わんばかりの絢爛豪華な昼食に、多くの客が虜になっているのだ。

メニューは、麺類だけで60種。丼ものや一品物、定番外メニューを合わせると、その総数は軽く100を超え、うどん蕎麦ラーメン、焼肉、カレー、麻婆丼と、何でもござれの乱れ撃ち。今日はどれにしようかと、あれやこれやと迷っている内に目が回り初め、油断すれば天と地の判断も付かぬ始末。食す前に、我、撃沈セリと言わんばかりの猛烈な勢いなのである。

大日本帝国連合艦隊を彷彿とさせる圧倒的軍備を持って客を迎え撃つ大衆食堂ヤマブキの品揃えだが、その中でも特に異彩を放つメニューが「わらじトンカツ定食」だ。

f:id:eyezonly:20151218072614j:plain

通常のトンカツ定食からして結構なボリュームがあるのだが、わらじトンカツの巨大さに比べれば赤子同然。

私が初めてわらじトンカツ定食を注文した時には、その巨大な姿に度肝を抜かれ、思わず「グレート!ワオ!」と口走ってしまったほどである。

緊張のあまり手の震えが収まらぬ中、添えられたレモンをカツの上でギュッとひと絞り。

果汁が程よく染み渡り、おちついてきた所で、揚げたてのカツをまずはソース無しでいただく。

「サク サク サク」

余分な油がしっかりと落とされた衣の軽快な歯ごたえの後、堂々とその姿を現すのが、待ってました、待ってましたよ、お待ちかねのロースちゃん。

程よく下味の付いたロースは大変柔らかく、サクサクの衣から開放された空気が豚肉の香りを更に引き立てる。

わらじトンカツは二段重ねで、メインである巨大なロースカツの上に小ぶりのカツが乗っている。小ぶりの方は、メインの赤身ロースカツを作る際に切り落とされた部位で構成されており、その大半が脂身で占められている。

上段の脂身が多いジューシーなカツは、付け合せのソースとの愛称も抜群だ。これらの余韻が残った所にメインの赤身ロースや白米などを戴こうものなら、夢心地、などという言葉では言い表せないほどに、濃幸なひと時を堪能できるのである。

無論、ソースは店のオリジナルブレンド。店主の丁寧な仕事ぶり、そして、あらゆる場面を計算しつくした食材の演出は見事という他にないだろう。

ところで、カツの組み合わせは、通常のトンカツ定食でも同様の方式が取られており、やはり上段が脂身多め、下段が赤身主体のロースカツとなる。一部の客に言わせると上段の脂身は不要らしいのだが、彼らは全く分かっていない。脂身は、我々にとっての燃料であり資源なのである。その燃料たる油なくして、どうやってこの戦いを乗り切ろうというのか…

燃料を蓄え、戦いの準備は整った。盆の中に広がる大海で、荒波を物ともせんといわんばかりに鎮座するわらじトンカツ、その堂々たる姿は、まさに軍艦大和そのものではないか。食の大艦巨砲主義ここに在り、といったところだ。

さて、トンカツといえば忘れてはならないメニューが、そう、カツカレーである。

こちらも揚げたて熱々のトンカツが、ドンと乗っているのだが、カツの旨さもさる事ながら、カレールーがこれまた絶品なのだ。

いわゆる家のカレー、昭和のカレーといった具合なのだが、コクと旨みが独特で実にヤマブキらしい仕上がりとなっている。

カレーライスはもちろんのこと、カレー南蛮など、ヤマブキのカレー系メニュー、その全てのベースとなっているこのカレールーだが、市販の固形ルーで作るカレーや、レトルトカレーのそれとは全く異なる味をしている。

ヤマブキのカレー系メニューを一度食べれば最後、いわゆる家カレー的な味で展開している大手チェーン店のカレーなど二度と食す気にはならないだろう。

終業間際「あ、今日カレー食いたいなぁ。今日はカレー曜日か?」などと考えているうちに、腹がギューと悲鳴をあげる。よし、夕餉はカレーに決定だ。即断即決、潔し。男たるものこうあるべきだ。

その潔い姿を見て、惚れた女が私の後ろに列を成して歩いていたという伝説など数知れず、日本一の男前とは、ひょっとして私の事をいうのではないかと、少しばかり嘘を申しても罰は当たらぬ、知らぬ存ぜぬである。

馬鹿な事を考えている間に終業のチャイムがなり、タイムカードを押す。おつかれしたーなどと言いながら、すでに私の頭の中はカレーライスの事でいっぱいなのである。

会社の門を出た後、いよいよ飯屋へと向かうのだが、ちょっと待て、ちょいと待ちなよお兄さん。カレーと言えば、印度屋さんを忘れちゃあダメじゃない。

そうだ、カレーといえば印度屋があった。

スパイスを前面に打ち出した本格カレーなら印度屋。家カレー最高峰とくれば大衆食堂ヤマブキ、といった具合で、カレーが喰いたい時は、その時の気分によって、どちらの店に行くかを決めている。

「今日はカレー、あーカレー食いたい、どちらの店も捨てがたい。困った困った。ああ困ったどうしよう、カレーの神様女神様」

悩みに悩んだ末、会社から程近い、大衆食堂ヤマブキへと足を運ぶ。

「すんませーん。カツカレー大盛りで」

ヤマブキは夜になると飲み屋へと変貌するのだが、この時間は昼間の大混雑とは打って変わって静かなものである。

店内を見渡すと、一品料理と酒で一日の疲れを癒す年配の客が数名居るのみ。お疲れ様です。

それはそうとお待ちかね、今晩主役のご登場と相成ります、ありがとうございます。

「おまちどうさん」

店主の声と共に、テーブルに差し出された皿からは、閃光ともいうべき銀色の光が燦々と放たれている。

まばゆい光の中、なんとか目を凝らして様子を伺うと、そこには母なる地球、母なる海をも思わせんとする壮大な光景が広がっていた。

米からなる白い大地、そして深い深いルーの海。そしてそしてだ、そこに浮かぶ巨大なトンカツの堂々たる雄姿。

f:id:eyezonly:20151218072725j:plain

ただでさえ光り輝く銀の皿に、負けず劣らず光を放つヤマブキのカツカレーに、私は真っ向から勝負を挑んだ。

カツを一切れフォークで突き刺し、カレーの海へ、サッとひと潜りさせる。

ルーの中へ沈んでもなお損なわれる事のないカツの圧倒的存在感は、先の大戦当時、世界最大を誇った伊四〇〇型潜水艦うり二つではないか。

ルーの海から再浮上したカツを、口へ運ぶ前に、まずは目で見て楽しむ。これは、カツカレーを食す際の国際ルールといっても過言ではない。

どうだ、見てみるがいい。灼熱のルーを潜りぬけたにも関わらず、サクサクとしたカツの衣は未だ健在。

彼らの戦意満ち満ちたままに、私は覚悟して口に放りこむのである。

「サクッサクッ、うむむ!!」

旨い、これは旨い。カレールー、そして衣の油に負けず劣らぬ豚の脂、その甘味旨みが口の中、そして鼻の中を、颯爽と駆け巡る。

その様子は、まるで潜水艦伊四〇〇から飛び立つ晴嵐攻撃隊の大爆撃そのもので、カレーとカツ、その芳香が口いっぱいに嵐の如く展開するのである。

皿の端から端にまで至る巨大トンカツは、その巨大さゆえ、カレーライスより先に消えてなくなる、などという事はない。終始デラックスムードに包まれつつ、カツカレーなる食べものを存分に堪能できるのだ。

ごちそうさま。

私は、手を合わせてそういった後、汗をぬぐいながら勘定へと向かう。ごちそうさまと伝えると、店主が笑顔でいう。

「いつもありがとう」

店主は金を受け取りながら軽い口調でそう言うが、その軽さとは裏腹に、食に対する熱意、職に対する誠実さというものが笑顔の奥からひしひしと伝わってくる。

私にとって大衆食堂ヤマブキとは、第二の故郷であり、日本人としての生き方を改めて考えさせられた場でもある。

個を貫き意を昇華させる。

業種は違うが、私も物を作り、人々に提供する立場にいる。

ヤマブキの店主のように、多くの人に、驚きと喜びを与えられる様な存在になりたいと思い、日々精進しているつもりだ。

精進に終わりはない。

私はただの平社員だが、いつの日か、どこかの誰かが私の事を熱く語ってくれる。その様な事を夢見て、今宵は眠ることにしよう。