雑談ブログ

豚骨ラーメン

極上のカレーライス

某料理店評価サイトで、カレーライス専門店「印度屋」のコメントを見た。いかにも、カレーライス大国日本だと、そう思える様な熱意溢れる内容が多く、楽しく拝見させていただいた。

そこに記載されていた感想の一つに「印度屋のルーはスパイシーさが少し足りない」、そう書かれていたのだが、言われてみれば確かにそうだ。
しかし私個人としては、印度屋さんのカレーほど口に合うカレーはないと、そう断言できる。

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印度屋のカレーライスを初めて口にした時、私はあまりの美味さに、脳内に有するカレーというカレー、カレーのイメージその全てを「印度屋」という単語に変換せざるを得ない、そう思える程の強い衝撃を受けてしまった。リフレッシュとはまさにこの事を指すのではないだろうか。

「これがカレーライスという食べ物か!!美味い!美味い!はぁぁ美味い!!!」

脳内で、そう連呼しながら一心不乱にカレーライスをかき込んだのは、幼少の頃以来だ。

という事で、初めて印度屋に訪れて以来「あれ、今日カレー曜日やん?」、という気分になれば足が自然と印度屋へと向かう、そんな体になってしまった。

印度屋のカレーライスを一瞬でも思い出すと、口の中は瞬く間に涎よだれの大洪水。集中力は、その全てがカレーライスの脳内再生へと費やされ、油断すれば呼吸すらままならぬ程の重篤な状態に陥る。

こうなると、仕事をするなど以ての外で、無理をして仕事を続けようものなら、下手をすれば死に至る大変に恐ろしい状態なのである。

「喰いたいよぉ、ああ喰いたい、印度屋さんのカレーライス…最後に一口…うぅ」

これではもはや、印度熱ならぬ「印度屋熱」と言っても過言ではなく、ワクチンといえば印度屋のカレーライスで他に治療法はない。これが関西では常識となりつつある、という話を幼い頃に祖母から聞いた記憶がある。

私は、週末になると印度屋へと足を運ぶ。たどり着いた頃には、いつも全身血まみれ傷だらけ。死ぬ思いで印度屋の門をくぐり、夢にまで見たカレーライスを存分に賞味する。するとどうだ、先ほどまでのカレー熱が嘘のように消えてなくなり傷は癒え、私は晴れて社会復帰できるのだ。おめでとう、ありがとう。

印度屋のルーは、辛さを四段階で調整可能だ。ノーマル、スペシャル、ダイナマイト、エキストラダイナマイトとあるが、ノーマルからして結構辛い。
私は全ての辛さを経験済みだが、どの辛さも大変風味豊かで、ただ辛いだけではなく最後の一口までおいしくいただける絶妙な仕上がりとなっている。来店する機会がある方には、是非とも全ての辛さを体験していただきたい。

また、ノーマルのルーとは別に、セイロン風ジンジャーカレーソースなる物も用意されており、こちらは辛さが抑えめ、甘味溢れるまろやかな口当たりが大変美味である。
このジンジャーカレーソースは、人生で一度は体験しておかなければ印度屋の門を潜る事は二度と許されない、という逸話すら存在する程の絶品ソースである。

しかし、そうはいったものの、辛いもの好きの私としてはジンジャーカレーソースはあくまでも前座であり、パンチの効いた通常のルー、もしくはダイナマイトをメインとしていただく、というのが生活の一部となってしまっている。

今の私にとってカレーライスといえば「印度屋」であり、それ以外の物は「カレー風ライス」という立ち位置で認識させていただいている。

印度屋の品で特にお奨め、という訳でもないが、私は基本的にビーフカレー一択。
あらかじめ言っておくが、ビーフカレーが一番安いから、というセコい理由ではない。人生、潔さが常に勝利を生む。ただそれだけの話だ。

印度屋さんのビーフカレーは、全国チェーン展開している他店のものとは一味も二味も違う。ルー、ライスを口に含み、そしてビーフカレーたる所以、やわらかビーフを噛み締めた時の、まるで雲を噛んでいるかの様な軽い歯ごたえ。肉を噛めば噛むほど、ひょっとして、私はこのまま空に飛んで行ってしまうのではないかと錯覚してしまう程の柔らかさは、正に肉心地、いや、夢心地。

肉の食感だけではない。香りがまたすごいのだ。印度屋さんのビーフは非常に薄くスライスされており、その切り口は、断面積に比例して肉の香りを口内で程よく拡散させる事に貢献している。
ビーフとしての主体性を保持しつつ、白米の存在を無駄にしない咀嚼強度のバランス、これを程よく保つという事は、逆を言えば、ビーフ感を捨てるという事でもある。

肉を切らせて骨を断つ、という言葉があるが、印度屋のビーフカレーはある意味それに近い所があるのではないだろうかと私は考えている。肉だけではなく、骨格たるカレーライス喰わずして何がビーフカレーだと。肉、ビーフのみで、ビーフカレーの全てを語る事など言語道断、破廉恥の極みといってもまだ足りないくらいの一大事なのである。

ルー、ビーフ、米、これらが口の中で渾然一体となって初めて「ビーフカレー」なるものが誕生する。ビーフが主役ではない。ビーフカレーの主役は、あくまでも「ビーフカレー」なのである。

いやいや、肉が主役でなくて何がビーフカレーだと、そういった肉好きを自負されている方もご安心いただきたい。
少々値は張るが、印度屋さんでは厚目にスライスされたビーフが載った「厚切りステーキカレー」なるメニューも堂々用意されている。
そこへ、トッピングで更にビーフを追加しようものなら、肉肉カレー肉カレー、まさに天竺ここに在りだ。肉好きも、ここで果てれば文句も出まい、そう思えるほどの迫力に満ちた一皿と相成る。

そして、肉といえば、これなくして肉好きを語るべからず、とも称される技が、とんかつトッピング無料券を使った肉系ダブルトッピング、その名を秘技「阿耨多羅豚勝三菩提」(アノクタラ トンカツ サンボダイ)。印度屋の常連であれば、誰しもが心得ているトッピング技だ。

「阿耨多羅豚勝三菩提」これは、古くからインドに伝わる言葉で「この上なくおいしい豚カツを得た」という意味のサンスクリット語「アヌッタラ トンカトゥ サンボーディ」を、漢字で表現したものである。
その意味が持つ通り、カツカレーを軸に、さらにカツ、ビーフ&カツといった肉系トッピングの組み合わせをすれば、どの様な選択をしたとしても決して後悔する事はない。真実不嘘、これこそが真実であり、嘘偽りない最強のトッピングなのだ。

スパイシーさが足りないと思われる方へのアドバイスとも言えるのだが、ルーの風味を存分に楽しみたいとあれば、ライスではなく、ナンを選択するのがベスト。
白飯では到底表現し得ない芳香に、米好きの私としては、嫉妬すら覚えてしまう程だ。
ルーとナンの風味が口の中に広がると、もう言葉など出ないだろう。出るのは安堵の溜息のみ。

美味いカレーを食べた時には、無理に言葉を発する必要はない。頭の中で、ただひたすらこれを唱えればよいのだ。

伽哩伽哩辛伽哩
(カリィ カリィ カラ カリィ)

辛僧伽哩菩提薩婆訶
(カラ ソウ カリィ ボジ ソワカ)

今夜は少々熱く語りすぎてしまったようだ。印度屋について語るのはここまでにしておこう。しかしながら、今日もまた幾多の客が印度屋へと足を運び、大いなる衝撃をもって、新たな伝説をネット上に記す事だろう…

究境伽哩

極上のカレータイム、是非とも多くの方々に体験していただきたい。

空想対談 まだオムツ履いてる様な若造に嫁持ってかれちゃって嫌になっちゃうよ(笑)

今月から始まりました、宇曽尾裕太の「煮るなり焼くなり」 今日は文芸心中の本社最上階にあります、喫茶ミチヅレよりお送りいたします。

今回は、今年4月、西麻布にてオムライス専門店「博卵会」(はくらんかい)をオープンした鶏乱白(ケイ・ランパク)さんと、李紅筒(リ・コウピン)さんのお二人をゲストにお迎えしてお話を伺いたいと思います。

宇曽尾: 早速ですが、私も馴染み深い鶏先生の白黄飯店が閉店されたというお話を聞いた時は大変驚きました。繁盛されていたと思いますが…

鶏: そうそう、全く嫌んなっちゃうよ。あー、そういえば裕太坊ちゃんが学生の頃は、ご家族でよくいらしてたね。妹の土筆ちゃんは元気?小さかった坊ちゃんがこんなに大きくなって。今じゃなに、文芸心中に連載持ってるっていうんだから大したもんだ。

宇曽尾: 親の七光りとでも申しましょうか(笑) ところで李さんは来日されて以来、トマト料理研究家として様々なメディアでご活躍されていますが、鶏先生とは中国にお住まいの頃から交流があったのでしょうか?

李: いえ、先生と出会ったのは白黄飯店が閉店した後だから、まだ2年も経っていません。出会った頃は、「日本に住んでるんだから、もっと日本語の勉強しなさい!」って毎日五月蝿く言われたけど、今の仕事が順調なのも全部先生のお陰。この出会いに本当に感謝しています。

宇曽尾: そうですか。てっきり古くからのご友人かと思っていました。二人が知り合うきっかけはなんだったのでしょうか。

鶏: 俺が店の事で悩んでいた時にさぁ、気分転換で、たまにはバーで呑もうかってんで一人で銀座行ってブラブラ歩いてたら、いかにも昭和って感じの店があったからさ、こりゃいいってんでそこ入ったの。

宇曽尾: 先生は普段から家で呑む事が多いと私の父から伺っておりますが、バーにも行かれるんですね。

鶏: いいやぁ、そんな洒落たところ滅多に行かねぇよ。行っても知り合いの婆さんがやってるスナックがいいとこ。でさ、そのバーでカウンターに座ったら隣にこの女が居たわけ。「酒飲みに来てるのになんでトマトジュースなんか飲んでんだ!」って、俺がいちゃもんつけちゃったの(笑)

李: ほろ酔いで良い気分だったのに、急に大声出されたから、グラス落として割っちゃったわ。あの時は殴ってやろうかと思った。ぷっちゃけるけど(笑)

 トマトに一生を捧げるのが私の使命なのよ。

鶏: で、なんだっけ、ブランドマリーかなんかいうカクテル勧められてさ、トマト味の。飲んでみろって勧めるから嫌々飲んでみたら美味いでやんの。ぶったまげちゃったほんと。でさ、色々話聞いているうちにお互いが料理関係者だって分かって、名刺交換してその日は帰ったんだけどね。

李: そうそう。

宇曽尾: ブランドマリー… あ、ブラッディマリーの事ですね。それにしても、プライベートでもトマト研究に余念がないというのは凄いですね。道は違えど、私もプロとして見習いたいところです。

李: うふふ、トマトに一生を捧げるのが私の使命だと思っていますので。実はね、学生時代の話だけれど、香港の占い館に行った時にね、そこの占いの先生にこんな事言われたのよ。「あなたは卒業後、赤い色の野菜に一生を捧げる事になる」って。それが本当になっちゃったの。私の名前見ただけですぐに分かったって言うんだからびっくりよね。ぷっちゃけ(笑)

宇曽尾: なるほど。大学卒業以来トマト研究一筋という事なんですね。

李: 私が身を削る思いで開発したケチャップはとても素晴らしいものよ。ぷっちゃけ世界一の味だと思う(笑)

鶏: そうそうそれでさ。うちの嫁が出てったってのが店じまいの原因なんだけどさ。タマゴグラフって雑誌あるだろ?あれで嫁が料理コーナーの連載持ってたわけよ。

 俺嫌いなんだよね、ああいうの。油喰ってるみたいなもんだぜ(笑)

宇曽尾: お嫁さんというと、鶏黄蘭(ケイ・オウラン)さんですね。

鶏: うん。でさ、しばらくしたらタマゴグラフの九十九プロデューサーってのが、うちの嫁目当てで店に出入りする様になって。店に来る度に変わった服装してくんだよね。俺嫌いなんだよ、男でああいうチャラチャラしたのって。でさ、そいつ旅行が趣味らしくて、旅行から帰ってくる度に、ご当地人形っての?あれ土産に持って来てさ、頼みもしないのに、店ん中に飾りやがって、ずうずうしいのなんの。嫁も若い男と話すのが嬉しいらしくって、最初、九十九プロデューサーって呼んでたのを、しまいには「九P(キューP)」なんて呼んじゃったりなんかして。もう嫌んなっちゃうよ(笑)

李: 二人が店で会話してるのが聞こえちゃったのよね。新しい店を出すとかなんとか。

宇曽尾: 九十九プロデューサーと黄蘭さんというと、現在調味料の販売で大成功されていますね。

鶏: マヨネーズね。俺嫌いなんだよあれ。油喰ってるようなもんだぜ(笑) でさ、あいつら二人で工場建てるって話聞こえたもんだから、文句いってやったの。「てめぇ、人の食べるモン、手を使わずに機械で作って何が嬉しいんだ、そんな冷てぇモン、人様に出すんじゃねぇ、料理人の片隅にもおけねぇから出てけ」って。そしたら涼しい顔して二人で出て行きやがんの。それ以来顔も見てない。九十九なんて、まだこの業界じゃあ右も左も分からない、オムツ履いている様な若造だぜ。あんなのに嫁持ってかれちゃって、ほんと嫌になっちゃうよ(笑)

宇曽尾: 老舗料理店が閉店した裏にはそういう事があったのですね。

李: 先生はそういう理由でマヨネーズがお嫌いでしょ。だから、私の作るケチャップが先生のお役に立てないかと思って、オムライス専門店を出す話を持ちかけたわけ。私のケチャップで炒めたチキンライスを最高の状態で包み込める腕を持った職人は鶏先生しか居ない、そう思ってね。バーで会った日、帰ってすぐ電話したわ。ぷっちゃけ、異性としても魅力を感じていたし(笑)

宇曽尾: そして遂に西麻布で店をオープンされたわけですね。先生の料理店が閉店した時は家族全員すごく残念な思いでしたが、また先生の味を堪能出来る訳ですね。

鶏: あの時の常連さんも新しい店に大勢来てもらってるよ。坊ちゃんもまた遊びに来てよサービスするから。マヨネーズを使った料理は出せねぇけどさ(笑)

宇曽尾: 近いうちに家族でお伺いしたいと思います。今回はお忙しい中、本当にありがとうございました。

鶏、李: ありがとうございました。

大衆食堂ヤマブキ、魅惑のわらじトンカツとカツカレー

誰しも、贔屓にしている飯屋の1つや2つはある事だろうと思うが、今日は、私が愛して止まない大衆食堂「ヤマブキ」について、少々書かせていただこうと思う。

ヤマブキのメニューで一番の人気は、何と言っても、昼限定の日替わり定食だろう。

煮込みハンバーグ、カキフライ、豚キムチ、ビーフシチューなど、その内容は様々で、他店を圧倒するボリュームながら、お値段据え置き味は絶品。一口食べれば、これは夕餉か晩餐かと言わんばかりの絢爛豪華な昼食に、多くの客が虜になっているのだ。

メニューは、麺類だけで60種。丼ものや一品物、定番外メニューを合わせると、その総数は軽く100を超え、うどん蕎麦ラーメン、焼肉、カレー、麻婆丼と、何でもござれの乱れ撃ち。今日はどれにしようかと、あれやこれやと迷っている内に目が回り初め、油断すれば天と地の判断も付かぬ始末。食す前に、我、撃沈セリと言わんばかりの猛烈な勢いなのである。

大日本帝国連合艦隊を彷彿とさせる圧倒的軍備を持って客を迎え撃つ大衆食堂ヤマブキの品揃えだが、その中でも特に異彩を放つメニューが「わらじトンカツ定食」だ。

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通常のトンカツ定食からして結構なボリュームがあるのだが、わらじトンカツの巨大さに比べれば赤子同然。

私が初めてわらじトンカツ定食を注文した時には、その巨大な姿に度肝を抜かれ、思わず「グレート!ワオ!」と口走ってしまったほどである。

緊張のあまり手の震えが収まらぬ中、添えられたレモンをカツの上でギュッとひと絞り。

果汁が程よく染み渡り、おちついてきた所で、揚げたてのカツをまずはソース無しでいただく。

「サク サク サク」

余分な油がしっかりと落とされた衣の軽快な歯ごたえの後、堂々とその姿を現すのが、待ってました、待ってましたよ、お待ちかねのロースちゃん。

程よく下味の付いたロースは大変柔らかく、サクサクの衣から開放された空気が豚肉の香りを更に引き立てる。

わらじトンカツは二段重ねで、メインである巨大なロースカツの上に小ぶりのカツが乗っている。小ぶりの方は、メインの赤身ロースカツを作る際に切り落とされた部位で構成されており、その大半が脂身で占められている。

上段の脂身が多いジューシーなカツは、付け合せのソースとの愛称も抜群だ。これらの余韻が残った所にメインの赤身ロースや白米などを戴こうものなら、夢心地、などという言葉では言い表せないほどに、濃幸なひと時を堪能できるのである。

無論、ソースは店のオリジナルブレンド。店主の丁寧な仕事ぶり、そして、あらゆる場面を計算しつくした食材の演出は見事という他にないだろう。

ところで、カツの組み合わせは、通常のトンカツ定食でも同様の方式が取られており、やはり上段が脂身多め、下段が赤身主体のロースカツとなる。一部の客に言わせると上段の脂身は不要らしいのだが、彼らは全く分かっていない。脂身は、我々にとっての燃料であり資源なのである。その燃料たる油なくして、どうやってこの戦いを乗り切ろうというのか…

燃料を蓄え、戦いの準備は整った。盆の中に広がる大海で、荒波を物ともせんといわんばかりに鎮座するわらじトンカツ、その堂々たる姿は、まさに軍艦大和そのものではないか。食の大艦巨砲主義ここに在り、といったところだ。

さて、トンカツといえば忘れてはならないメニューが、そう、カツカレーである。

こちらも揚げたて熱々のトンカツが、ドンと乗っているのだが、カツの旨さもさる事ながら、カレールーがこれまた絶品なのだ。

いわゆる家のカレー、昭和のカレーといった具合なのだが、コクと旨みが独特で実にヤマブキらしい仕上がりとなっている。

カレーライスはもちろんのこと、カレー南蛮など、ヤマブキのカレー系メニュー、その全てのベースとなっているこのカレールーだが、市販の固形ルーで作るカレーや、レトルトカレーのそれとは全く異なる味をしている。

ヤマブキのカレー系メニューを一度食べれば最後、いわゆる家カレー的な味で展開している大手チェーン店のカレーなど二度と食す気にはならないだろう。

終業間際「あ、今日カレー食いたいなぁ。今日はカレー曜日か?」などと考えているうちに、腹がギューと悲鳴をあげる。よし、夕餉はカレーに決定だ。即断即決、潔し。男たるものこうあるべきだ。

その潔い姿を見て、惚れた女が私の後ろに列を成して歩いていたという伝説など数知れず、日本一の男前とは、ひょっとして私の事をいうのではないかと、少しばかり嘘を申しても罰は当たらぬ、知らぬ存ぜぬである。

馬鹿な事を考えている間に終業のチャイムがなり、タイムカードを押す。おつかれしたーなどと言いながら、すでに私の頭の中はカレーライスの事でいっぱいなのである。

会社の門を出た後、いよいよ飯屋へと向かうのだが、ちょっと待て、ちょいと待ちなよお兄さん。カレーと言えば、印度屋さんを忘れちゃあダメじゃない。

そうだ、カレーといえば印度屋があった。

スパイスを前面に打ち出した本格カレーなら印度屋。家カレー最高峰とくれば大衆食堂ヤマブキ、といった具合で、カレーが喰いたい時は、その時の気分によって、どちらの店に行くかを決めている。

「今日はカレー、あーカレー食いたい、どちらの店も捨てがたい。困った困った。ああ困ったどうしよう、カレーの神様女神様」

悩みに悩んだ末、会社から程近い、大衆食堂ヤマブキへと足を運ぶ。

「すんませーん。カツカレー大盛りで」

ヤマブキは夜になると飲み屋へと変貌するのだが、この時間は昼間の大混雑とは打って変わって静かなものである。

店内を見渡すと、一品料理と酒で一日の疲れを癒す年配の客が数名居るのみ。お疲れ様です。

それはそうとお待ちかね、今晩主役のご登場と相成ります、ありがとうございます。

「おまちどうさん」

店主の声と共に、テーブルに差し出された皿からは、閃光ともいうべき銀色の光が燦々と放たれている。

まばゆい光の中、なんとか目を凝らして様子を伺うと、そこには母なる地球、母なる海をも思わせんとする壮大な光景が広がっていた。

米からなる白い大地、そして深い深いルーの海。そしてそしてだ、そこに浮かぶ巨大なトンカツの堂々たる雄姿。

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ただでさえ光り輝く銀の皿に、負けず劣らず光を放つヤマブキのカツカレーに、私は真っ向から勝負を挑んだ。

カツを一切れフォークで突き刺し、カレーの海へ、サッとひと潜りさせる。

ルーの中へ沈んでもなお損なわれる事のないカツの圧倒的存在感は、先の大戦当時、世界最大を誇った伊四〇〇型潜水艦うり二つではないか。

ルーの海から再浮上したカツを、口へ運ぶ前に、まずは目で見て楽しむ。これは、カツカレーを食す際の国際ルールといっても過言ではない。

どうだ、見てみるがいい。灼熱のルーを潜りぬけたにも関わらず、サクサクとしたカツの衣は未だ健在。

彼らの戦意満ち満ちたままに、私は覚悟して口に放りこむのである。

「サクッサクッ、うむむ!!」

旨い、これは旨い。カレールー、そして衣の油に負けず劣らぬ豚の脂、その甘味旨みが口の中、そして鼻の中を、颯爽と駆け巡る。

その様子は、まるで潜水艦伊四〇〇から飛び立つ晴嵐攻撃隊の大爆撃そのもので、カレーとカツ、その芳香が口いっぱいに嵐の如く展開するのである。

皿の端から端にまで至る巨大トンカツは、その巨大さゆえ、カレーライスより先に消えてなくなる、などという事はない。終始デラックスムードに包まれつつ、カツカレーなる食べものを存分に堪能できるのだ。

ごちそうさま。

私は、手を合わせてそういった後、汗をぬぐいながら勘定へと向かう。ごちそうさまと伝えると、店主が笑顔でいう。

「いつもありがとう」

店主は金を受け取りながら軽い口調でそう言うが、その軽さとは裏腹に、食に対する熱意、職に対する誠実さというものが笑顔の奥からひしひしと伝わってくる。

私にとって大衆食堂ヤマブキとは、第二の故郷であり、日本人としての生き方を改めて考えさせられた場でもある。

個を貫き意を昇華させる。

業種は違うが、私も物を作り、人々に提供する立場にいる。

ヤマブキの店主のように、多くの人に、驚きと喜びを与えられる様な存在になりたいと思い、日々精進しているつもりだ。

精進に終わりはない。

私はただの平社員だが、いつの日か、どこかの誰かが私の事を熱く語ってくれる。その様な事を夢見て、今宵は眠ることにしよう。